藝林文庫(14)

『散歩』は医療薬用語だった

浜 旦(はまあした)

 私は昔から歩くことが好きだが、散歩の好きな人は意外と多いことを知る。

 古来、散歩には思索人が付き物らしい。ガウス、ゲーテ、ベートーヴェン、ペスタロッチ、ホイットマン等は有名?。これは一つの絵になっているからで別 に有名人に限らず、日本人も十分に楽しむ。

 散歩と徘徊とはもともと違うものだという。

 古代ギリシャ、医学の父・ヒポクラテスは早朝、食後、運動後と三つの散歩をすすめる。早朝のそれは体を痩せさせ、頭を明快、耳をよくし、腹を柔らかくする、と。

 一方、東洋では奈良期から薬用語だった。渡来僧・鑑真は時の皇太后の病を治して、「大和上」の位 を賜るが、その薬物は今に正倉院に伝わる。その中に「五色散」という岩石薬がある。中国の道士の練薬で石層、丹砂、雄黄、白礬、青磁石の処方でこれを飲むと体が暖かくなる。これを散発と呼ぶ。飲んだままでは体内に薬毒がこもるため散発させる。そのために歩き回ることが課せられる。これが散歩である。

 岩石薬を服用せずとも散歩は身心を実によくする。珍しい景物を賞で、人とのめぐり逢いもあり捨て難い。三月は旧暦では春たけなわ、大いに散歩を愉しみたい。

 因みに「薬石効なくして…」は諸々の薬を含むあらゆる手立てを病人に施してもその甲斐がないこと。

 「薬」の字は植物を挽き(摺り)つぶしたクスリのこと。人参がその最古のものとか。クスリは岩石は無論、人骨、象牙の類、熊や狐の肝や猿の脳、鯉、スッポンの生血等と多岐にわたる。 〈参考=『楽しいわが家』誌)

 

船橋市民新聞 2001年 3/1発行 第29号


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