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藝林文庫(10) 浜 旦(はまあした) |
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俳人・与謝蕪村の句に「稲づまや浪もてゆへる秋津しま」がある。秋津は蜻蛉で、あきず・あきつ。とんぼのこと。「島」が付いて日本本州、列島の古称。大和の枕詞。とんぼの交尾の形を日本の国の形と見立てた。季語は稲妻で秋。 以下、長島弘明先生の″解″のご紹介とともに―。 『闇を切り裂く一瞬の稲妻が立ち騒ぐ白波に縁取られた豊饒な秋津島の全姿を浮かび上がらせる』が句意。仰観から俯瞰へ。遠景から極遠景。宇宙の高みからの描写に成功。 蕪村の江戸期、不正確ながら日本図はあり、万国図も目にする機会はあった。が、人工衛星も無い頃、列島を真上から見下す句想が意表を衝く。その大胆。画人でもある蕪村の超絵画的な構図に驚く。本歌がある。古今集「わたつみのかざしに挿せる白妙(しろたへ)の波もてゆへる淡路島山」である。謡曲『淡路』にも引かれ、新古今集にもこれを本歌とした作もあり有名。 もともとは万葉集の国見、国ぼめ歌の系上の国土讃美。「浪もてゆへる」は『海神が髪飾りに挿す白い波の花をまわりに結いめぐらしている』。稲妻は稲光。稲交(いなつるび)とも。妻は神。稲を実らせると信じられる。稲妻の一閃の照出が『日本国』ではなく、豊饒と生殖の『秋津島』でなければならない。 本歌の淡路島を秋津島と。ただ一語の変換で微小から極大へ。さらに高く、宇宙の高みに至った。非凡希有である。 蕪村の稲妻の句は水辺が殆ど。「いな妻の一網うつや伊勢の海」「いな妻や秋津しまねのかかり舟」「いなづまや浪のよるよる伊豆相模」と。最後は実朝歌集を彷彿させる。
船橋市民新聞 10/1発行 第24号 |
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